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バトルグラウンドからの報告(7) ── ついに身体を腐食し始めた人種主義の毒

わたしがお世話になっている研究所の人と選挙の話をしていて、こんなことを言う人がいた。「民主党も共和党も直接に人種を問題にすることを必死になって避けている、だけどこの選挙の争点のひとつは間違いなく人種だ、必死になって避けているがゆえに、返って危険な状況が生まれている」。

ちょっとわかりにくい話ではあるが、少しそこのところを最近の展開をふまえて解説したい。

CNNの看板番組 Anderson Cooper 360 が報じ、今日もLarry King Live が詳述しているところによると、ミネソタ州でのマケインを支援するタウンミーティングでこんなやりとりがあったらしい。

白人女性:「わたしはオバマを信頼しません。彼について書かれているものを読んだんですが、彼はアラブ人ではないですか」

マケイン:「いえ、そんなことはありません。彼は家族を大切にする立派な人物です。わたしはただ根本的政策で違う意見をもっているだけなのです。この違いこそが選挙運動で大切なのです」

次には男性が「わたしはもうオバマが怖いんです、怖くて仕方がありません」。

映像を見ると、マケインはそうとう慌てている。「何も怖いなんて…。怖くなんかありません」とやみくもに否定するだけ。

第2回の討論会が終わって以後、共和党は新たなオバマ攻撃材料を選挙戦に持ち込んできた。バカらしいことではあるが、それはオバマの名前。彼の名前をミドルネームまで正確に綴ると、それはバラク・フセイン・オバマになる。共和党幹部は、このフセインというところを殊更強調する選挙演説を行ったり、サラ・ペイリンに至っては「テロリストとねんごろになっている」"pal around a terrorist"(これはオバマの支持者のなかに、60年代の連続爆弾犯の過激派がいるのを揶揄したもの)とまで述べてきた。下にあるクワミ・キルパトリックとの関係をやり玉にあげる公告と良い、遠回りのメッセージとして、「こいつはまっとうなアメリカ人なら信頼するはずがない「人種」に属している」と言い続けてきたのである。

ところが、「上品になったアメリカ」では、人種主義に訴えることを直截な表現で公共の場で行ってはならない。なぜならば、そうすることで離反する人びとが着実に増えているからだ。

世は「ブラッドレー効果」の時代。この時代にあっては、世論調査の調査員に対して対面を取り繕う層(英語でswing vote、敢えて訳せば「無党派層」になろうか)に訴えてこそ意味がある。しかし、無党派層はこれでは離反する。なぜならば、彼ら彼女らは世論調査の調査員に対しても「本性」を見せることができない人びとだからだ。

したがって、人種主義に訴える共和党に戦略は、「わかるひとにはわかる」形、「コード化されたことば」coded wordを使ってこそ、最大の効果があがる。直截で赤裸々な人種主義はリスクが高いのだ。クスリはリスク…

ところがミネソタの女性は、直截に言ってしまった。こまったのがマケイン。ここで

「はい、そうですアラブは信用なりませんし、怖いんです」

と言えばどうなるであろう。

イラク戦争の最大の支持勢力はサウジ・アラビアやアラブ首長国連邦。アメリカはそもそも湾岸戦争のときに、クウェートを救うために戦争を率いた。大統領候補が「アラブは信用ならない」と言ってしまったら、これは「アメリカの国益」にも大きな悪影響を与える。

それを民主党が見逃すはずがない。ああ、しまった、大統領候補討論会もまだ一回残っている。

しかし、共和党は、この女性が勘違いしてもおかしくないような運動を展開してきたのである。その「毒」が早くまわり始めてしまった。それで共和党自身が「解毒」に必死だ。この「毒」は、「共和党に一票」分だけ効いてくれば良かったのだ。しかし、どうやら悪辣な公告の度が過ぎたようである(『ニューヨーク・タイムズ』論説文のマケイン批判を参照)。

さてもう一度

「民主党も共和党も直接に人種を問題にすることを必死になって避けている、だけどこの選挙の争点のひとつは間違いなく人種だ、必死になって避けているがゆえに、返って危険な状況が生まれている」

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2008年10月11日 12:49に投稿されたエントリーのページです。

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