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有権者登録運動について(4) ── Blue States と Red States

さて、このタイトルで前回予告したように、少々堅苦しいがアメリカ大統領選挙の仕組みを紹介しよう。

昨日の大統領候補テレビ公開討論を終えた直後のCNNの調査では、ついにオバマの支持率が54%に達した。しかし、これは大統領選挙に必要な「票」の54%が支持したことを意味しない。

アメリカの大統領選挙は、州ごとに票の集計が行われ、州の第一位の者がその州に人口比に応じて割り当てられた選挙団 electorate を獲得するという仕組みになっている。そのため、人口の少ない州でいくら「強烈に優勢」であっても、大きな州で「僅差で敗北」を続ければ、選挙には負けることになる。したがって、算術的な計算のうえでは、獲得票数で勝っていても、選挙戦略をまちがえれば選挙自体に負けることもあり得るのだ(実際にそのような事態が生じそうになったこともあるーー歴史的事例に関してはヴァージニア大学が運営している Geostat Center の地図がわかりやすい)。

では、この選挙団の獲得数にみる「支持率」も、最近ではネットですぐに見られるようになった。たとえば、Electoral - Vote.com が提供する速報は、歴史的時系列的な地図も簡単に見られ、もっとも親切でわかりやすいものになるである。ちなみにこのサイトはRSSフィードはもとより、 iPhone 用のアプリ(iPod Touch でも動くはず)もあるので便利である。

さて、この地図を、特に南部に着目して、少し前の選挙までさかのぼって見てほしい。

南部とロッキー山脈の諸州では、なんと驚いたことに、1974年の選挙以来一貫して共和党候補が選挙団を獲得している。そしてまた、驚いたことに、ニューイングランドの北東部の州は、入れ代わって民主党が一貫して選挙団を獲得している。

アメリカの報道機関は、このような地図を描くにあたり、民主党が獲得した州を青色、共和党が獲得した州を赤色で塗る。いわゆる「Blue State と Red State の対立」という構図は、このような事情を反映して言われるようになったことである。

そしてここで強調したいのだが、黒人を初めとするマイノリティの権利に敏感(それを遺憾に思う人間は「マイノリティに対して甘い」と言うだろう)だった民主党は、南部の州を「失った」のである。「失った」と言うのは、1968年まで、つまり公民権運動がいちおうの「終結」を迎える年まで、南部は民主党の「牙城」(英語では Solid South と言う)だったからだ(このような事態の転変についての詳細は右の本が詳しい)

なお、いま先ほど放送されていたCNNは、ミシガン州が民主党に傾くのが有力になったので、「オハイオ州とペンシルヴェニア州が鍵を握る」と報道していた。このふたつの州は、上のリンクにみるように、大票田とは言えないものの、キャスティングボートを握るには十分の選挙団をもっている。

マケインがミシガン州から「撤退」したのは、このような事情を考慮してのことである。野球に喩えてみよう。9回まで12対0。そこで抑えのエースを投入する監督もいなければ、さぁ反撃だと怪我で休ませている主力打者を代打に送る監督もいない。ふつうならそのような「余力」は「次の試合」に「温存」させる。それが指揮官というものだ。ここで「最後まで全力でやるのが本来の姿だろう」などと「正論」を言っても通用しない。アメフトに通じている方ならば、最終クォーターを迎えて、もう敵側がどう考えても逆転できないとわかった時分には、たとえゲームが続いていても、スポーツドリンクをヘッドコーチの頭にかける「儀式」が行われているのを観たことがあるだろう。そうこれはプラグマティックな算術の世界なのである。

ここで気づかれた方もいるかもしれない、ヒラリー・クリントンが不評を買いつつも自分こそが electable だと主張し続けたことの根拠には、このような算術があった。スーパーチュースデイ以後のオバマの脅威的な連勝は、実は本選挙になると民主党には勝ち目のない Red State で起きていたのだ。

ところで、CNNと違った観点から、わたしはこの選挙がほんとうに Change を意味するならば、それはくどいようだが(結果はともかくも)ミシガン州の投票「動向」と、ヴァージニア州やノース・キャロライナ州などのバトルグラウンドとなっている南部の州が重要な意味をもつと思っている。では次回のこのエントリー題での記事はこの点について詳述しよう。

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2008年10月09日 12:24に投稿されたエントリーのページです。

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