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サブプライム危機と人種~世にも恐ろしいひどい話

アメリカの住宅融資をめぐる危機が日本の株式市場にも影響を与え始めて数か月たち、日本でもサブプライムローンということばが広がり始めた。このローンは、最初は低率の金利(たとえば初年度4%)で始まった住宅ローンが、数年後には数倍(たとえば3年後18%)に跳ね上がるという融資制度のことを言う。

結果として高利融資になるのだが、その間、債務者がほかの金融機関からより有利な条件で融資をすることで、高利の支払いを回避できる、というのはこのひどい制度を作り出したものの言い分だ。理屈ではこうなる。いまの景気が続けば、きっと住宅価格が上昇する。その3年間の上昇分で、利率の低いローンに乗り換えれば良い。たとえば、日本で日銀がゼロ金利政策を止めたとき、変動金利から固定金利への乗り換えが進んだ。多くの住宅ローンはより有利なローンへの切り替えによって返済されるのであって、その点でいえば、この理屈は「うん、そうなのか」といったところがある。

ところが、サブプライムローンを利用する人びとは、ふつうの金融市場での有利な融資を受ける可能性の低い低所得・貧困層であり、ほとんどの債務者はローンが支払われず、その結果、担保となっている住宅を差し押さえられ、破産する末路に追いやられている。もちろん、いちばん大元の融資者は利益を得るが、よくよく考えてみると、これは巧妙に仕組まれたマルチ商法に近いもの、住宅市場のバブルはいつかははじける。いやはじけ始めた。

ここまでは単なる経済問題。しかし、ハリケーン・カトリーナのときのことを思せる方はすぐわかるように、アメリカで低所得・貧困層といえば、黒人とラティーノが人口比に不釣り合いな割合で含まれることになる。そう、サブプライムローンで苦しんでいるのは、黒人とラティーノなのだ。

「2台の自家用車がある家」、これは戦後直後の日本に紹介された、アメリカの物理的豊かさの象徴、つまりアメリカン・ドリームだった。ところが、この夢を実現できた黒人は少ない。なぜならば黒人に住宅資金が融資されることは、白人に比して、異常に低かったからである。この仕組みをレッドライニングと呼ぶ。簡単に言うとこうだ。ある地域が「地価や住宅価格が低下傾向にある」と判断された場合、その土地や住宅を抵当にした融資に対し厳しい査定を行う。その地域を赤緯線で囲んだことからレッドライニングと呼ばれている。ところが、この「地価や住宅価格が低下傾向にある」地域というのは、ほとんど決まって黒人ゲトーかラティーノのバリオである。経済的なことばで語りつつ人種への言及がまったくなくても、金融という自由市場は人種差別的に機能する(この点については、右の著書が詳しい)。

人によっては、高利の融資を利用するのは、その人物の経済観念がまちがっているからであると言うだろう。しかし、黒人・ラティーノは、利用したくてサブプライムローンを利用しているのではない。これを利用しないと、夢が実現できないから、それに賭けざるを得なかった、もしくはそう強いられたのである。

さて、問題のサブプライムローン、ついにこれによって黒人は住宅のための融資が得られたかに思われた。ところが、2年後に、その住宅を売り払わなくてはならないのである。

ニューヨーク市立大学のFurman Center for Real Estate and Urban Policyがこのほど明らかにした調査によると、ニューヨーク市とその近郊の住宅地を調査したところ、黒人とラティーノの住民比率が高くなるにしたがって、サブプライムローンの利用者が増える。さらに、同じ所得のものを比べたとしても、通常の住宅融資ではなく、サブプライムローンを利用している黒人・ラティーノは、白人の2から3倍に達するという。しかも、差し押さえは、黒人・ラティーノの地区から始まっている。

仕組みはこうだ。
・サブプライムローンで貸し付けを行う
・サブプライムローン利用が多いというので、その地域の住宅価格が低下する(もちろん、サブプライムが多いということは、暗に黒人やラティーノが多いということを意味する)。
・低下した住宅価格では次の融資を受けることができないのでレッドライニングが行われる。

かつては「夢」をみることをできなくさせ、今日はつかの間の「夢」を見させて、地獄に突き落とし、利子としてなけなしの貯金もろともごっそり引っ剥がす。世にも酷い話ではないか!。

さて、こうなるとこういう主張する人が現れることが予測される。これは妥当な経済的判断であり、人種とは何も関係ない。上の仕組みは、表面上、そうだ。

ところが、2004年に連邦準備制度委員会がサブプライムローン融資業者にローン利用者の情報を開示することを求めた際、それに猛反対したのは金融業者の団体である。何か腹黒いところがあったから、と思われても仕方がないだろう。

その実、『ニューヨーク・タイムズ』紙は10月17日の論説文にて、サブプライムローン融資にあたって人種差別を行っていないという挙証責任は金融業者にある、と論じている。金融業者はこの声に真摯に耳を傾けるべきだろう。彼らのどす黒い思惑が、世界経済を混乱に落とそうとしている。それは、決して債務の支払いができなくなった人びとの「無責任さ」が原因ではない。

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2007年10月19日 16:38に投稿されたエントリーのページです。

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