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下にも記していますが、ファーガソンでの黒人少年殺害、ニューヨークでの黒人絞殺などの時事的な問題について、このところはフェイスブックにて発言をしております。というのも、関連記事へのリンクが容易でわかりやすいからです。


それでもこちらのブログも、ほんとうに再開させることを真剣に考えないといけません。そこで新たな試みをすることにします。黒人研究にあたって話題の書籍について、その読後感想を、自分の研究ノートもかねて、ここに少しずつ記すことにします。

今回はその第一回で、ウィリアム・ジュリアス・ウィルソンのもとで学んだ社会学者による、シカゴのサウスサイドにエスノグラフィ。Mary Pattillo, Black Picket Fences: Privilege and Peril among the Black Middle Class (Chicago: University of Chicago Press, 1999)

同種のエスノグラフィには、同じくシカゴ社会学のスディール・アラディヴェンカテッシュによる『アメリカの地下経済―ギャング・聖職者・警察官が活躍する非合法の世界』があり、邦語訳も慣行され、日本においても知っている人は多いはずである。ここで紹介するパティーロの研究は、黒人の貧困層の「逸脱行為」に焦点を当てる研究が多いことを批判的に捉え、むしろミドルクラスがいかなる社会経済的環境に住み、どのような規範をもっているのかの解明に焦点をあてたところに特徴がある。その内容は以下の通り、


【梗概】
・社会学・政治学の研究は、わけても1980年代以後、貧困層にもっぱら焦点を当ててきた。その結果、黒人ミドルクラスはかつてのゲトーから「脱出した者たち」という簡単な規定を受けるに留まり、その内実の研究は疎かにされてきた。しかし、黒人ミドルクラスの研究は重要である。
・黒人ミドルクラスの経験は、白人のそれとは質的に異なる。黒人ミドルクラスは、実態としての住宅地の人種隔離が存在しているために、貧困層と近接して住む傾向がある。1970年代以後のアメリカ経済の低成長は、それまで続いてきたミドルクラスの増加に終止符を打った。この情況が隔離された生活圏と重なったとき、黒人ミドルクラスは、白人とは異なり、強い下方圧力を経験することになった。たとえば、黒人の場合、ミドルクラス家庭出身であろうと貧困家庭出身であろうと、同じ公立学校に通う傾向がある。同じミドルクラスでも白人の場合、白人貧困層とは居住地が異なるために、このような事態は生じてはいない。
・したがって、アメリカ経済のリセッションに対する黒人の対処法は、白人のそれとは異なることになる。それは、拡大家族のネットワークを活用するという柔軟な対応策を採る場合もあれば、ギャング活動やドラッグ売買といった犯罪性の強い対応策へ向かうケースもある。
・黒人青少年は、白人とはまったく異なり、ギャング活動に対する直接の経験と知識を持っている。黒人ミドルクラス家庭は、子供たちをそのような活動から遠ざけようとはするのだが、しばしばそれは成功していない。
・しかし、同書がリサーチ対象に選んだコミュニティでは、ギャングの存在は地域の治安維持に貢献するといった肯定的な側面も持っている。また、顔を向き合わせた親密な関係がまだ特徴的であるこのようなコミュニティにおいて、ギャングはしばしば親しい「横丁の少年」でもあり、年長の住民たちのギャングに対する勘定はアンビヴァレントなものにならざるを得ない。

【感想】
同書におけるギャング活動やヒップホップ文化に関する記述は、黒人の犯罪性というステレオタイプを強化しかねない。犯罪行動は社会経済的な混乱や苦境へのクリエイティヴな対応であるということ、これは社会科学においては通説であろう。ところがしかし、それが一般社会の「常識」にフィットした感覚かというと、そうではないはずだ。ここで述べられている現象が事実だとすると、それをどのように記述するのかこそが大きな問題であろう。

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2015年01月20日 15:36に投稿されたエントリーのページです。

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