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バトルグラウンドからの報告(14) ── コリン・パウエルが描いた〈人種〉のサブテクスト

アメリカNBCテレビの日曜日午前中の人気番組 Meet the Press で、コリン・パウエル前国務長官/元統合参謀本部長が「バラク・オバマに投票する」と語ったことは、ネットで見るかぎり、日本にも素早く伝えられているようだ。

だが、日本での報道は、彼がインタビューで語ったことの核心部、もっとも大きな反応を引き起こしている部分を伝えていない。彼は、政策論でオバマが優れているからオバマを支持するなどとは言っていないのだ(YouTube のリンクを参考)。

彼はこのインタビューで、わたしがこのブログで度重なり伝えてきた、共和党のネガティヴ・キャンペーンに対する激しい嫌悪感を示している。そして、肝心の部分は終わりにさしかかったところだ。ここは、以前ここで紹介したミネソタ州でのマケイン集会で起きた事件、オバマはアラブ人だから怖いといった女性の発言を否定し、その上でオバマの人格を賞賛してしまったマケインの行動に表れた「偽善」を実にするどく突いている。

逐語訳はできないが、おおまかに言って彼が言っていることはこうだ。

「オバマ上院議員はムスリムではありません、そうです、それは当たり前のことです、彼はムスリムではない、でもムスリムではないということそれ自体に何の価値があるのですか、アメリカ人のなかにムスリムがいてはいけないのですか、こんなことを見たムスリムのアメリカ人の子供がいったいどんな気持ちになるかわかっているのですか、わたしも「政治」が何だかはわかっていますが、それにしてもマケイン陣営がやっていることは行き過ぎです」。

大胆且つなるべく面白くなるように例えたら、こうなるだろう。

共和党はずっとこう言ってきた。「対抗馬のアタマは薄くなっている」。

そうするとやがて有権者のなかに、「あの候補はハゲでしょう」という人が現れてしまった。

それで共和党選対は否定に必死になる。「いえ、そんなことはぜったいに言っていません。わたしたちはアタマが薄いと言っていただけです。ハゲなんて言ってません。あの候補はハゲではありません、立派な人格者です」。

ハゲはたまらない。なぜなら、こう言われたとたん、《ハゲ=非人格者》というとんでもない等式ができるから。

コリン・パウエル、この人物の識見が高いと思ったのは今回がわたしは実は初めてだ。それにしても、彼が今日行った指摘はすばらしい。誰もこのような視角から論じようとしなかったのだ。アラブ人の気持ちがわからなかったのだ。

ずっとわたしは言ってきた。この選挙のテクストは人種である。それがサブテクストになっている。《黒人/白人》の関係論に拘泥してきたために、わたしはほかの軸が見えなくなってしまっていたようだ。

パウエルがこのことに気づいたのは、彼がさまざまなフィールドで「黒人初」を経験した人物だからだろう。彼を(意識やアイデンティティの面で)黒人だと思ったのもわたしは今日が初めてだ。

しかし誤解のないように断っておくが、それは彼がオバマを支持したからではない。支持するレトリックに彼の黒人性が現れているのだ。

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2008年10月20日 12:27に投稿されたエントリーのページです。

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