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2大政党制と多様な社会の併存不可能姓

全米ネットCBS放送と黒人を主な視聴者とするケーブル局BETが実施した世論調査によると、成年の黒人の何と10分の9が、イラク戦争に価値はなかったという意見をもっていることが判明した。

しかし、こうなると問題はアメリカの硬直した政治制度である。民主党候補に正式指名されたジョン・ケリー上院議員とブッシュの公約や基本的政治姿勢は違っているのだろうか?、それが問題なのだ。

民主党候補のケリー人気は、「ブッシュ以外なら誰でも良い」、アメリカではABB(Anything but Bush)と略して称されるようになった世論の後押しを受けている面が決して小さくない。雇用創出や税制の面では、均衡財政を主張し、海外で生産活動を行っている企業に対する税率を上げ、そうすることによって労働者へ所得の「再配分」を行おうと主張している面において、ケリーはブッシュと大きく違っている(ブッシュは高額所得者の税控除を増額する措置を実際にとった)。

ところが、世界の注目を浴びている対イラク政策に関し、ケリーは「[ここまで来たなら民主化をめざし]最後までがんばる」という主張を繰り返している。つまり彼は「反戦候補」などでは断じてない。

この経緯は、ベトナム戦争当時、1968年の大統領選挙を思わせる。この年の選挙は、民主党はハンフリー、共和党はニクソンを擁立し、たたかわれた。ニクソンは、民主党現職副大統領であるハンフリーを相手に、同党の対ベトナム政策を激しく批判した。アメリカ軍の実戦部隊を削減し、軍事顧問団だけを南ベトナムに残すという「ベトナム化政策」を提唱したのも彼だ。しかし、いったん当選すると、ニクソンは、北爆を再開し、カンボジアに侵攻したのである。

2つの政党が票を競いあうとなると、互いが浮動票の獲得を目指し、この「浮動票」なるものの実態が不明なため、2党の政治綱領(マニフェスト、米語では正式にはプラットフォーム)は、時を経るに従って類似性を高めてくる。これは政治学の基礎的知識だ。

有権者が均質かつ平等である政体ならば、このような2大政党の性向は、中道路線を踏襲することになり、さして問題は起きないだろう。しかし、多様化が叫ばれている現代社会、わけてもその度合いが高いアメリカにおいて、このような硬直した政党政治はマイノリティの意見を押しつぶす方向に働く。

現に、イラク撤退を望んでいる有権者は、投票すべき候補が存在していない。イラクだけを争点にするならば、10名のうち9名の黒人は、望ましい候補をみつけることができないのだ。

この意味において、「政権交代可能な2つの政党」という言葉は、「政権が交代しても劇的政策変更はありえない2つの政党による民主政治」と解することができる。

民主主義は、自由な社会において、人びとの多様な欲望を調停する、いまのところベストな政体である。しかし、政治制度が多様性を反映しないかぎり、その利点は極めて小さくなる。アメリカ大統領選挙の投票率は極めて低い。

イラク戦争をリードした国家がともに「2大政党制」であるのは、偶然の一致だろうか。戦争に反対した欧州の大国が、多様な政治を反映しやすい多党林立政体であり、連合政権をとっているのは偶然の一致だろうか。

実は、アメリカの2大政党制がもたらす有権者へのオプションの減少については、かねてからずっと指摘されてきたことである。「あなたはリンゴが好きですか、それともミカンが好きですか」と二択で訊ねられ、「どちらも好きではありません」と答えると少し、「バナナが好きです」と答えるとかなり変人と思われてしまう。しかし2代政党制のカラクリはこれと同一の構造をとっているのだ。少し大胆な比喩を使うと、「弊社の商品をご紹介したいのですが、明日がいいですか、それとも明後日がいいですか?」という質問を投げかけてくる押しの強い悪質な訪問販売と良く似ている。用心しなくては、二択の構造に捕らわれてしまい、「来なくても結構です」と言えなくなってしまう。

現在のアメリカでは、「イラク撤退」はもとより、「国際社会へ大量殺戮兵器がみつからなかったことに対する説明責任をまっとうする」と言う大統領候補はいない。

さて、その国家の領土内に住む人びとの多様化が著しく進行する一方で、野党に2大政党制を主張している国があるが、その方向で良いのだろうか。その国では、従来ずっと「護憲」を唱える政党が消えつつある。憲法を守りたいひとが勝利を見据えて投票できる候補が見つからなくなってしまう可能性が高い。

アメリカでは、自分たちの利益を代弁してくれると黒人たちが感じることのできる候補が存在しない。激しい闘争のすえ勝ち取った投票権を行使しないひとが急増している。

(なお憲法論争について、当ブログの主題と関係がないため、ここでは私論は展開しない。上記の意見や事実の指摘は、アメリカ政治から見えるもののひとつとして紹介した)。

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2004年07月29日 10:10に投稿されたエントリーのページです。

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