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2000年08月 アーカイブ

2000年08月20日

書評:Gerri Hirshey, Nowhere to Run

Gerri Hirshey Nowhere to Run: The Story of Soul Music (New York: Da Capo Press, 1994)

白人による黒人音楽パフォーマーのインタービュー集である同書はきわめて興味深い論点を提示してくれている。60年代のR&B、ソウルを扱った同様の著書とはまったく異なった「トーン」が、この本にはある。それは、1960年代というきわめて感情的思い入れが強い時期に興隆したソウルを語るにあたって、ハーシーはなにひとつ同時代的論考をしていない、という点である。

評者は、スザンヌ・スミスの著書の評する際に、ネルソン・ジョージの二大作は「単なるノスタルジアに過ぎない」という批評がなされているという事実に関して言及しておいた。今日の都市ゲトーは、60年代のそれとは異なり、上・中流階級が心地よい住宅環境を求め郊外へ「脱出」したあとのものである。したがって、かつてのゲトーには生き生きとした〈文化〉が存在していたのに対し、今日のゲトーにはその〈文化〉の担い手になれる資力・能力が(一部のヒップ・ホップ・アーティストを除くと)存在しない。そのような現状をふまえた上でかつての〈黒人コミュニティ〉、ならびにこのコミュニティが生んだ文化を論じると、どうしても「古き良き日々」を語ってしまうトーンになりがちである。

この本は60年代に立ち返らないことによってノスタルジアに陥ることを巧妙に避けている。著者の視点は必ず1994年という時点におかれ、過去を振り返るのはアーティスト当人である。そしてアーティストたちの言葉の底辺に流れるのは「時代は変わった」というものであり、彼ら彼女らは過去の人種隔離の存在した時代をノスタルジックに振り返ることなく、黒人音楽がアメリカ文化の主流となった現在を楽しく生きている。マーサ・リーヴスはモータウンの南部ツアーの際に、白人優越主義者からバスが銃撃された事件を語っているが[1]、そこにもどこかしら人種主義を嘲笑う余裕がある。白人優越主義者がわがもの顔で南部を闊歩した時代は、確実に過ぎ去ったのだ。

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